化学物質の爆発安全情報データベース

第1章 確認試験実施における留意点

1 危険物判定のための試験の導入

 従前の消防法においては、法別表により一律に危険物の指定が行われ、化合物あるいは混合物相互の危険性の相違が、危険物の指定に反映されない実態にあった。ただし、石油類を中心とした第4類の危険物については、引火点により区分がされ、引火点の測定方法についても統一的な運用が図られていたため、実質的には試験による危険物の判定が導入されていたといえる。

 昭和63年度に行われた消防法令の改正は、危険物の指定をより合理的なものとするため、試験による危険物の判定が全ての類について全面的に導入されたものであるが、これにより危険物の性状確認と判定についての危険物規制上の仕組みに変更を生じることとなるものではないことに留意する必要がある。

 すなわち、危険性を有する物品を貯蔵し、又は取り扱う事業者は、あらかじめ物品の危険性状について十分に把握し、その危険性状に応じた安全対策を講じるべき社会的責任を有しているものである。したがって、危険物施設を設置しようとする場合にも、消防法に基づく許可申請の前提として危険物の性状についての確認が事業者により行われてきているものである。また、危険物の判定は、危険性を有する物品が消防法上の規制対象となる危険物に該当するものであるか否かを性状データに基づいて行政機関が認定する行為であり、許可申請の審査時に併せてこれを実施することにより、消防機関が許可の前提としての物品の危険性状を正しく把握するとともに、事業者が誤った理解のもとに許可申請を行い結果的に施設の改修等事業者に新たな負担が生じることを防ぐこともできるものである。こうした事業者の責任あるいは行政機関の役割については、今回の消防法令の改正により何ら変わるものではないが、試験による危険物の判定が全面的に導入されたことにより性状確認のための方法が法令上明確に規定され、1~2の試験を適用することにより合理的な方法によって誰でも性状の統一的な把握が可能となり、行政機関が行う危険物の判定も迅速に行い得ることとなることからその意義は大なるものであるといえる

2 確認試験の法的位置付け

 危険物判定のための試験の方法は、危険物の規制に関する政令(第1条の3から第1条の8まで)、危険物の試験及び性状に関する省令において規定されているが、これは消防法における危険物の指定範囲を厳密に確定するために、物品が本来的に有する危険性状を試験の適用により正確に引き出す目的で定められているものである。したがって、実験室等で実際に行う試験を想定して試験条件を規定したものではないことから、試験実施に伴う条件(例えは試験場所の温度、湿度、標準物質の純度等)については、示される性状に影響を生じることがないよう厳密な条件の規定がなされており、こうした条件に従った試験を適用した場合に示される性状は、誤差を生じることない物品国有の性状として常に正確に求め得るものである。見方を変えれば、消防法における物品が有する固有の危険性状とは、厳密に規定された条件に従った試験を適用した場合に現われるであろう性状をもって、それぞれ定められているものであるともいえる。

 ところで、危険性を有する物品を貯蔵し、又は取り扱う事業者がその物品の危険性に応じた安全対策を適切に講じるため、危険性状をあらかじめ具体的に把握しようとする場合には、実験室等において実際に試験を実施することによりこれを行うこととなる。この場合には、消防法令で規定された試験条件に厳密に適合した試験を実施することには困難を伴うことも多いものであることから、試験結果に特別の問題を生じるおそれのない場合に限り試験条件について一定の許容され得る範囲のもとで試験を実施してもさしつかえないものとされ、その方法が別途示されている。この試験は消防法令で親定されている危険物判定のための試験と区別する意味から「確認試験」と呼ばれているが、確認試験は、物品の性状確認を行うための試験実施にあたって採用することができる必要条件を定めているものであり、例えば試験により示される結果が危険物としてのボーダーライン付近に位置する等問題を生じる場合には、消防法令に規定されている試験方法に、より近づけた試験を実施する必要があるものである。

3 確認試験実施にあたっての留意点

 本書で解説するマニュアルは、確認試験の実施にあたっての標準的な実施手順とそのポイント等を整理したものであるが、この確認試験は、物品の危険性状を確認するため実際に実施する試験として定められているものであり、消防法令で規定されている試験とはその主旨を異にするものである。したがって、物品の危険性状を確認試験により確認するにあたっては、消防法令の適用に関して誤った性状の把握を行わないため、次の点について留意する必要がある。

(1)試験物品の性状、粒度、混合状態等が均一でない物品にあっては、当該物品の危険性を最も正確に表すものを確認試験に供する。例えば、固体成分を含有する引火性液体であって不均一な混合状態で流通する物品については、引火危険性の最も高い性状を示す成分組成の部分が当該引火性液体の危険性を表していると考えられる。

(2)標準物質と試験物品との比較試験においては、許容される試験条件の範囲内における試験結果の差異をできる限り生じさせないため、試験物品に係る試験を行う際に併せて標準物質に係る試験を行う。

(3)確認試験方法に定められている試験条件は、試験実施にあたって通常許容され得る最大の範囲を示したものであることに留意し、省令に定める標準物質、試験場所、試験の実施手順等の条件により近く、かつ、確認試験の結果によって問題を生ずることがない条件で確認試験を行う。特に、同一人が確認試験を行った場合に同一とみなされる試験物品に係る確認試験の結果に差異がある場合、異なった人が確認試験を行った場合にその結果に差異がある場合など危険物に該当するか否かの判定及びその危険性の程度の確認ができない場合にあっては、より厳密な確認試験を行う。

(4)確認試験方法において定められている試験を繰り返す回数は当該試験の精度を確保するためのものであることに留意し、試験を繰り返す回数は、できるだけ多い回数で確認試験を行う。特に、同一人が確認試験を行った場合に同一とみなされる試験物品に係る確認試験の結果に差異がある場合、異なった人が確認試験を行った場合にその結果に差異がある場合など危険物に該当するか否かの判定及びその危険性の程度の確認ができない場合にあっては、試験を繰り返す回数を更に増加して確認試験を行う。

(5)試験の実施に、より習熟している者が確認試験を行う。

4 その他の試験方法

 物品の危険性を判断するための試験として消防法令上規定されているものは次表のとおりである。

 ただし、これらの試験以外にも危険物の判定を行うために必要となる方法として

  液状確認方法
  沸点測定方法
  発火点測定方法
  動粘度測定方法
  可燃性液体量測定方法
  燃焼点測定方法

等がある。これらの確認を行うにあたっては、確認試験と同様の考え方によりその具体的な実施方法が示されているところである。