化学物質の爆発安全情報データベース

18.4 シリーズ8 タイプ(a) 試験規定

18.4.1 試験8(a): 硝酸アンモニウムエマルション、サスペンジョンまたはゲルの熱安定性試験
18.4.1.1 はじめに

18.4.1.1.1 この試験は、「爆薬中間体である硝酸アンモニウムエマルジョン、サスペンジョンまたはゲル」の候補が高温状態に置かれたときの安定性を測定し、エマルジョンが輸送するには危険過ぎるかどうかを判定するために用いられる。

18.4.1.1.2 この試験は、エマルジョン、サスペンジョンまたはゲルが、輸送中にさらされる温度において安定であるか否かを判定するために用いられる。このタイプの試験が通常行われるやり方(28.4.4 参照)では、0.5 リットル デュワー 瓶が包装品、中容量コンテナ、小型タンクの代理品として唯一用いられる。硝酸アンモニウムエマルジョン、サスペンジョンまたはゲルの輸送に関して、装填時も含めて輸送中起こりうる最高温度より20℃高い温度で試験を行った場合には、この試験はタンク輸送中の安定性を測定するために使うことができる。

18.4.1.2 装置および材料

18.4.1.2.1 実験装置は、適当な試験チャンバー、適切な蓋つき デュワー 瓶、温度プローブ、および測定器具から成る。

18.4.1.2.2 試験は、火炎や過圧に耐えうる試験セルの中で行わなければならない、そしてブローアウトパネルのような圧力解放システムを備えていることが望ましい。記録装置は、別の観察領域に設置する。

18.4.1.2.3 デュワー 瓶のすべての面に空気を循環させるのに十分な大きさの自動温度調整乾燥炉(ファン付き)を使用する。炉の中の空気温度は、デュワー 瓶中の不活性液体試料のための望ましい温度が10日間まで±1℃以内の偏差に保たれるように調整する。炉内の空気温度を測定し記録する。炉の扉に磁石式留め金を付けるか、ゆるく取り付けた絶縁カバーに代えておくことが望ましい。炉は適当な鋼製ライナーで保護し、デュワー瓶はワイヤーメッシュケージに入れる。

18.4.1.2.4 閉鎖装置の付いた容量 500 ml のデュワー 瓶を使用する。デュワー瓶の蓋は、不活性なものでなければならない。閉鎖装置を、図 18.4.1.1 に示す。

18.4.1.2.5 使用される装置、つまり デュワー瓶と閉鎖装置の熱損失特性は試験実施に先立って確認しておく。閉鎖装置は熱損失特性に重要な影響を及ぼすので、閉鎖装置を変化させることによってそれはある程度まで調整することができる。熱損失特性は、類似した物理的特性を持つ不活性物質で満たした容器の冷却半減時間を測定することによって決定できる。単位質量ごとの熱損失 L (W/kg.K) は、冷却半減時間 t1/2 (s)、物質の比熱 Cp (J/kg.K) から次の方程式を用いて求めることができる。

L = In 2×Cp/ t1/2

18.4.1.2.6 熱損失 80-100 mW/kg.K の物質400 ml で満たした デュワー瓶が適切である。

18.4.1.2.7 デュワー瓶はその容量の約 80 % まで満たす。粘度の非常に高い試料の場合は、ちょうど デュワー瓶に適合する形状になるように準備する必要がある。そのような前もって形作られた試料の直径は、デュワー瓶の内径をちょうど下回るくらいにする。デュワー瓶の底には、試料を容器に装填するに先立って、円柱形状の試料物質の使用を容易にするため、不活性の固形物質を満たしておくとよい。

18.4.1.3 手順

18.4.1.3.1 試験チャンバーの温度は、運搬中に達しうる最高温度より 20℃高い温度に、あるいは、装填時の方が高いならばその温度に設定しておく。デュワー瓶に供試試料を満たし、その質量を記録する。試料は瓶の高さの約 80 % まで満たすよう注意する。温度計の探針を試料の中心に挿入する。デュワー瓶の蓋を密封し、デュワー瓶を試験チャンバーの中に挿入する。温度記録システムと接続し、試験チャンバーを閉める。

18.4.1.3.2 試料を加熱し、試料と試験チャンバーの温度を継続的にモニターする。試料温度が試験チャンバーの温度より 2℃低くなる時点の時刻を記録する。試験はさらに7日間続けるか、あるいは先に試料温度が試験チャンバーの温度より 6℃以上高くなればそれまで続ける。試料温度が試験チャンバーの温度より 2℃低くなった時点から最高温度に達するまでにかかった時間を記録する。

18.4.1.3.3 試験後、試料が残れば、試験チャンバーから出して冷却し、できるだけ早く注意して処置する。質量の損失率および組成変化を測定する。

18.4.1.4 試験判定基準および結果査定方法

18.4.1.4.1 いずれの試験でも、試料温度が試験チャンバーの温度より 6℃以上高くならなければ、その硝酸アンモニウムエマルジョン、サスペンジョンまたはゲルは熱的に安定であるとみなされ、“爆破薬の中間体である硝酸アンモニウムエマルジョン、サスペンジョンまたはゲル”の候補として、さらに試験される。

18.4.1.5 試験結果例
物質
試料質量(g)
試験温度(℃)
結果
コメント
硝酸アンモニウム
408
102
-
少々変色、硬化して塊になる
質量損失 0.5%
ANE-1
硝酸アンモニウム 76%、水 17%、燃料/乳化剤 7%
551
102
-
油分離、結晶化塩
質量損失 0.8%
ANE-2(鋭感)
硝酸アンモニウム 75%、水 17%、燃料/乳化剤 7%
501
102
-
やや変色
質量損失 0.8%
ANE-Y
硝酸アンモニウム 77%、水 17%、燃料/乳化剤 7%
500
85
-
質量損失 0.1%
ANE-Z
硝酸アンモニウム 75%、水 20%、燃料/乳化剤 5%
510
95
-
質量損失 0.2%
ANE-G 1
硝酸アンモニウム 74%、硝酸ナトリウム 1%、水 16%、燃料/乳化剤 9%
553
85
-
温度上昇なし
ANE-G 2
硝酸アンモニウム 74%、硝酸ナトリウム 3%、水 16%、燃料/乳化剤 7%
540
85
-
温度上昇なし
ANE-J 1
硝酸アンモニウム 80%、水 13%、燃料/乳化剤 7%
613
80
-
質量損失 0.1%
ANE-J 2
硝酸アンモニウム 76%、水 17%、燃料/乳化剤 7%
605
80
-
質量損失 0.3%
ANE-J 4
硝酸アンモニウム 71%、硝酸ナトリウム 11%、水 12%、燃料/乳化剤 6%
602
80
-
質量損失 0.1%

.

図 18.4.1.1: 閉鎖具付き デュワー瓶閉鎖具付きデュワー瓶


(A)
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)毛細管
(B)
O リングシール付きねじ込み継手(PTFE または Al)
(C)
金属製帯鋼
(D)
ガラス製蓋
(E)
ガラス製ビーカー底部
(F)
ばね
(G)
ガラス製保護管
(H)
デュワー瓶
(J)
鋼鉄製保持装置